swan
あれは確か高校生の頃だったか。
アメブロが大変に流行った記憶がある。
アメンバー限定記事(Twitterでいう裏垢?鍵垢?)のようなものが出回ったり、mixiに移行する者が出てきたり、Twitterの勢力に押し負けたり。
そんなアメブロで、知り合った女の子がいた。
何がきっかけだったのかも、
どうやって仲良くなったのかも
ほとんど覚えていない。
都会で暮らす、同い年の女の子。
彼女は、バレエをやっていた。
進学校に通っていたということも、覚えている。
なにか理由をこじつけて、電車で3時間かけて
彼女に会いに行くことになった。フッ軽。
待ち合わせの駅で、階段を上がったところにいるとのこと。
「どんな子なんだろう...」
期待と不安を胸に、言われた通りの服装をしている女の子に声をかけてみると、彼女はヨーロッパ風の顔つきをしていた。
外人さんみたいな顔して、ばりばりの関西弁だったことがとても印象深い。
「何食べる?」
「うーん、サイゼでええやろ」
「いや、おれ行ったことないねん」
「まじで!ありえへんわ」
河原町通のオーパを少し上がったところのサイゼリヤに行って、ミラノ風ドリアを食べた。サイゼリヤに行ったらミラノ風ドリア以外に何を頼めばいいのか分からなかった。田舎者とはそういう生き物である。
余談だが、三年前までスターバックスでは抹茶フラペチーノしか頼めなかった。田舎者とはそういう生き物である。
ミラノ風ドリアの味はしなかったが、彼女の軽快な話し方と大きな瞳に吸い込まれるようだった。バレエをしていること、「白鳥の湖」は確かにみんな通る道だということ、バレエはとても厳しいが楽しいこと、
「うちな、フランスにバレエの留学行くねん」
その言葉が出てきたことも、違和感はなかった。
真面目に頑張っているから、もっと上を目指したいから、両親の支えがあるから、フランスでやりたいんだ、と。
15歳の僕に、世界を見ている彼女は眩しすぎたのかもしれない。
フランスに行ってくる、というやり取りを最後に、彼女との連絡は途絶えてしまった。
彼女は今、どこで踊っているのだろう。
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河原町通のサイゼリヤを通った時、「そういえばここって...」と、ふとその子のことを思い出してしまいました。そうそう、この少し急な階段を上ってお店に入ったよなと。大学生になってからはまったく思い出すこともなかったんですが、社会人になり京都に戻ってきて、まさかね、と。
出身高校は覚えているので、今の時代何とか辿れば、彼女にたどり着くことも出来るとは思います。が、「あの時のバレエ少女です」とこのコメント欄に現れてくれるのを気長に待ってみてもいいんじゃないでしょうか。田舎者はそういう生き物である。
ジャガイモの芽
コンビニのベンチに座って、寒い冬の冷えた缶コーヒーを啜っている。
「ほんの少しの未来ってなんだ?」
人生はさよならが隣り合わせだから、「あの時こうしていれば」「あの日に戻れれば」と思わずに生きられない。
思えば、ひどい言葉も言われたし、こんな毎日はどうせ無駄なんだろうなと思うこともあった。
でも、そんなだらっと続くゆるい幸せこそが、思い返せばとても素敵だったと思う。
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ジャガイモの芽のことを「ソラニン」と呼ぶのだと知ったのは、今からもう9年も前になる。当時中学生の僕は、宮崎あおいが煙草を吸っているのを見て、なんとなく始まるセックスの描写を見て、バンドマンの日常を見て、それはそれは憧れたものだ。
ムスタングのギターが欲しいと思ったが、絶対同じような考えのやつがいるだろうと思ってジャズマスターを買ったのも、ある意味ではソラニンの影響なのかもしれない。
前置きが長くなってしまったのは、彼女と別れたことを認めたくないからだろうか。あるいは、現実を受け入れられないのだろうか。
ジャガイモの芽が放っておくと生えてくるように、僕達の関係も知らない間に終わりに近づいていったのだろう。ぜったいに離さないと誓った右手は、案外簡単に、するりと解けてしまった。
悪い種のおかげで僕達は離れ離れになってしまったけど、僕もどーにかやるので、君もどこかで元気でやってほしい。
僕は今、「ソラニン」を聴いている。